大判例

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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)3841号 判決

「訴外郡川宏は、昭和二八年一〇月二一日、被告より専務取締役という名称の使用を許されていたところ、金融を受くる必要が生じたので、約束手形用紙に、被告専務取締役郡川宏という振出名義を使用して、金額二〇万円支払地並びに振出地堺市支払場所株式会社三和銀行堺東支店と記入し、満期・振出日・名宛人の各欄を空白とし振出人名下に捺印した書面一通を作成し、これを大阪第一信用金庫田辺支店勤務の訴外林信一に対し、知合いの訴外重根清を通じ、これで割引できるようであれば正式の代表取締役振出名義の手形に書直すことにして、ひな形見本兼信用調査資料として交付したこと、ところが右林信一は、これを他に流通せしめ、訴外阪神交通株式会社(当時の商号つばめタクシー株式会社)の裏書等を経由して、原告が右手形を取得するにいたつた事実を認めることができる。

かように、約束手形の見本とするつもりで、かかる書面を他人に作成交付した行為が手形行為といえるかどうかについて考えてみる。手形行為は行為者の瑕疵なき意思によつてなされることを要するから、意思の欠缺又は瑕疵のある場合の効果については従来議論の存するところである。この点については手形法に特則がないので、意思表示に関する民法九三条以下の一般規定をそのまま適用するほかないように思われるが、手形行為の特性を考えると、そのまま適用することはできない。民法の一般規定は、例えば売買、消費貸借のような固定的な特定の当事者間の法律関係を予定して、その間における公平な解決をはかつたものなので、意思主義に立脚しつつ、相手方又は第三者の利益を考えて若干表示主義を導入するにすぎないが、手形行為は不特定人間を転輾流通する証券上の行為であるから、不用意な行為者の利益よりも何ら非難すべき点のない手形取得の利益を重視しなければならず、従つて表示主義の優位を認めることが必要である。かように考えると、手形行為が成立するためには、それが手形であることを認識し、又は認識すべくして、その上に署名したことを要するとともに、それをもつて足ると解すべきである。そして本件につきこれをみるに、郡川において、右書面作成にあたり、書面上に見本又はひな形なるものなることが一見明瞭なる表示をして、署名捺印したのであれば手形行為とならない。しかし、かかる何らの表示又は表識を施すことなく漫然署名捺印し、それは恰も、空白欄部分を白地として補充することを他人に許した真正の白地手形と、外形上何らの区別がない。郡川専務取締役としては、かかる書面に、署名捺印する場合、これに署名捺印し他人に交付すれば、これが不特定人間を転輾すれば手形と誤認されて他人に不測の損害を与えることあるべきを認識すべき義務があるというべきである。かような点から、右書面の作成交付はかような認識義務を怠つたことにより手形振出と同様の責任を負うべきである。」

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